俺が見たそいつは
 
乾いた笑いを浮かべていた
 
作り笑いとも言うべき
 
感情の無い笑顔・・・
 
 
人の波間にたやすく入り込み
 
悲しみや怒り
 
ねたみや憎しみ
 
さらにはいら立ちや恨み
 
そう言ったものは決して表に出さず
 
人の悪口も言わない奴・・・
 
いつでも,誰にでも
 
向けるべきときにはきちんと笑顔を向けるそいつ・・・
 
 
 
そしてそいつは,
 
まさしく
 
世間に作らされたもう1人の俺だった
 
世間という巨大な支配者が求める
 
俺の姿だった・・・・・・
 
 
 
そいつは俺からすべてを奪った
 
住む家も身体も
 
名前さえも・・・
 
 
 
それ以来
 
俺は世界の谷間にひとりで住み
 
光と闇を見つめてきた
 
名も無き1つの“幻”として・・・・・・
 
 
俺の叫びは誰にも聞こえない
 
声さえも奪われてしまったから
 
何かに書き記そうにも
 
書く手を持たない
 
流す涙も無い
 
この悔しさ
 
このもどかしさ
 
 
 
いったい誰がわかってくれるのだろう・・・・・・






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第1話 一匹狼

第2話 カメラ

第3話 からみつく花

第4話 イベント

第5話 壊れた歯車

第6話 迷える二人

最終話 袋小路



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